〈唯said〉
撮影直前になってもあたしの気持ちは晴れないまま。
おかしいな。
撮影前は、それだけに集中するようにしてる。
…というより、それ以外のことは考えられない。
なのに
さっきの悠斗のことを思い出す。
悠斗はどこか上の空で
あたしの方はチラリとも見てくれなかった。
「ゆーいちゃん!」
気持ちがどよーんとしてきたことに危機感を感じていると、ミナがあたしの背中に飛びついてきた。
「ミナ!びっくりしたぁ。」
「私の撮影は終わったけど、様子見に来ちゃった!」
この後アメリカに帰るんだ!
ミナはそう付け足して笑った。
「そっかぁ、寂しくなるね。」
「唯ちゃん、可愛い!」
ミナはそう言って、あたしを抱きしめてくれた。
「緊張、してる?」
「うん…ちょっと…」
悠斗のことばっかり考えてて気づかなかったけど
そう聞かれると緊張してきちゃった…
だって、今回は最後の締めのシーン。
ここの良し悪しで作品の価値が決まるって言っても過言ではない。
「頑張れ、唯ちゃんなら出来るよ!私が頑張って意地悪い美玲を演じたんだから、後は頼んだよ!」
「うん、任せて。」
「それにそれに、拓真君とのキスシーン!いくらフリだって言っても2人のファンが黙ってないだろうね〜。」
ミナはどこか楽しんでる様子でそう言った。
拓真君とのキスシーンはフリでいいって明石監督に言われてるから、特に不安はない。
でもフリでどこまで表現出来るか、頑張るしかないよね。
「もう1回言うけど、頑張れ、唯ちゃん!」
ミナの明るい声に、少しだけ勇気をもらえた気がした。


