ここに彼女が来るようになってしばらくのことだった。 彼女が髪にキスをするようになったのは。 そんな時からずっと、蒼井は俺に伝えていた。 なんでそんな方法で? 「橋村先生、愛してるってことは相手のことを考えるってことなのよ。」 水戸先生の優しい声に、俺はがたりと音を立てて立ち上がった。 …そうでしか伝えられなかったんだ。 はっとした俺はジャケットをひっつかんで保健室を出た。 『若いわねぇ。 …ねぇ、すみれちゃん。』 ニコニコ笑うベテランの婦人はそう独り言を言ったのだった。