【短編】髪にキス。




コーヒーのいい香りが保健室を包み込む。


こんなにいい香りなのに、なんであんなに苦くてまずいんだろうと幾度となく考えた。


「いい香り。」


私はそう言って満足げに微笑む。
私にとってコーヒーは先生の香りだった。


「相変わらず熱そうに飲むな。」


コーヒーを片手に笑いながら向かい側に座る男がこんなに遠い。


手を伸ばせば触れられるのに、触れられない。


「熱い方がいいの。」


毎日会えないから、この舌の痺れさえ愛おしくて。



砂糖を溶かし込んだ暑くて甘い紅茶を飲み干すまでが、私に許された先生を想う時間だった。