言うなれば赤い薔薇、情熱的な香りのする大人の女性。
ルウドはこの所浮かれていた。

不思議な魅力を持った女性ジュリアが好意的に話しかけてきてくれる。
先日は一緒に食事でも、という約束を取り付ける事が出来た。

苦節二十八年、長く騎士をしてきたが女性とこのような付き合いをするのは初めてだ。

女性は周囲に居ることは居るがジュリアの様な女性の扱いは分からない。
彼女はどうすれば喜んでくれるのだろう?


とりあえずその手の専門家に聞くことにした。

三番隊隊長ハリス=ローアン二十五歳。城一番のもて男。
その範囲は子供からお年寄りまで女性なら全て許容範囲。
柔らかな茶髪と優しい微笑みと物腰、暖かな口調で女性の全てを虜にする男。

男達の尊敬の的でありこの手の相談なら彼が一番だと専らの噂だ。

彼のいる宿舎へ行くと周囲がバタバタと慌ただしかった。
何かあったのだろうかと不思議に思いながら彼の部屋を訪ねる。


「やあハリス、何かあったのか?」

「……ルウド……」

ハリスは何故か微妙な顔をした。

「…まあ大したことではないのだが、ルウドこそ何かあったのか?私の所に来るなんて珍しい」

「うん、実はとある女性のことで…」

「それはめでたい、君にも春が!」

「そんな話じゃないんだ、ただどうすれば喜んでもらえるのか知りたくて」

「へえなるほど、それはどのような女性だい?」

「赤毛の美しい女性だよ。ジュリアさんて言ってね、赤い薔薇を思わせる女性だよ」

「…君がそういう趣味とは知らなかった。道理で城内の女性に興味を持たなかったわけだ」

「そんなことはないぞ?城の女性だって十分魅力的だと思っている。ただ彼女達は何故か私を敬遠するのだ」

「…まあ城の人達は内情を知っているからねえ」


銀髪青眼のルウドはただ立っていれば冷たいイメージを持たれる青年だが実はただの朴念仁である。
本当は温かみのある優しい人間なのだが口が大雑把な為に誤解される事が多い。
城の女性達からは密かに遠くから憧れられている事が多いのだがそれすら当人は気がついていない。

「……しかし赤毛の女性か…」

上からハリスの小隊へ通達が来たのはつい先程の事だ。

「なにか問題があるのか?」

「うん?無いよ。そうだねえ、相手は大人の女性だしそんなの気を使う事はないと思うよ?君なら自然体でいいと思う」

「それじゃさっぱり分からない。彼女はどうすれば喜んでくれるんだ?」

「彼女の好みは知らないよ、本人に聞くといい。でも最初のプレゼントは無難に薔薇の花束とかどうかな?薔薇が好きな女性なのだろう?」

「なるほど、そうだな。わかったよ、有難う」

「お役に立ててよかったよ」

ルウドは悩みが晴れて嬉しげに部屋を出て行った。
手を降って見送るハリスの顔が微妙に曇っていることに気づかなかった。




「全くいい気なものね。警戒心が無さすぎよ。騎士隊長としてどうなのかしら?」

「…姫様、そんなことを仰らず。彼に春が来たのです。黙って見守ってあげましょうよ?」

「ふん、何が春よ。そんなものすぐに砕け散るわ」

「……例えそのような運命でも、今ある春に意味があるのですよ。あとの事など全てが終わってから考えればいいことです」

「言うわね優男、どうなっても知らないから。使えない男の代わりにあなたがしっかり働きなさい。私に何かあったら許さないわよ?」

「はい、勿論ですよ、ティア姫様……」

女性を蕩けさせると言う評判の微笑みさえもこの姫には形無しだ。
無理もない、彼女の好みは如何せんハリスではない。

「…姫様にも早く春が来ると良いですねえ」

しまった。要らぬことを呟いてティア姫に鬼のような顔で睨まれた。

「黙って仕事しなさい」

「……はい」