王宮の内奥には王家の私室がある。一家は仕事以外は大体そこで過ごす。
午後の穏やかな日差しのさす室内庭園でのんびりと家族とのひとときを過ごす。
この国の王と王妃は誰の目から見ても仲がいい。
そして二人の子供達、パラレウス皇子、皇女アリシア、ミザリー、ティアの四兄妹は端から見たらとても仲が良く並ぶと天使の肖像画のように美しい。
「パラレウス、パーティーはどうだった?気に入った女性などいたかい?」
「……いいえ、そんな簡単にはいきませんよ。パーティーには他国の皇子、皇女様も招待されているようですがきっかけがなければ知り合うのは難しいですよ?」
「そうか?皇女達は各々相手を見つけて楽しんでいたようだが」
「……そのようですね…」
王と王妃は子供達には各自で相手を見つけて貰いたいと思い、年頃の彼らの為にパーティーを度々開いていた。
だが肝心の後継ぎの皇子は中々自力で相手を見つける事が出来ない。
皇子はもう二十歳。そろそろ痺れが切れる頃だがそれでも王家の方針として相手は当人に決めさせる事を変えはしない。
「お兄様は優柔不断なのよ、何でもいいから決めちゃえばいいのに」
おやつをパクパク食べながらミザリーが言う。
「そんな、何でもいいわけないだろう?この国を支える王妃となる人だよ。慎重に事を進めないと」
「慎重過ぎて老衰するまでに決まるかしら?」
全く話しを聞いていなさそうな顔をしてしっかり聞いていたティアが毒を吐いた。
「ティア……私だって好みも…君だって……あの……」
「――――何ですって?」
恐ろしげな顔でぎろりと睨まれた。最近ティアは機嫌がすこぶる悪い。
「まああ、ティア、怖いお顔。そんな顔をしていたらますます殿方が遠のきますよ?」
「ほっておいて下さるアリシアお姉さま。いいわね婚約者が居られる方は気楽で」
「ほほほほほ、でもティア、貴方は私の妹ですもの。相手なんて選り取り見取りでしょう?」
「……それって何気にお姉さまがもてるって言ってませんか?」
アリシアとティアは容姿だけは双子と見がまうばかりの瓜二つだ。初対面の人がみればほぼ見分けがつかない。
だが性格が違うので身内にはすぐ分かる。
アリシアはおっとりした性格の気品ある性質でティアははつらつとした気さくな性質。
アリシアは高嶺の花でティアは身近な花だ。
ちなみにミザリーも金髪緑眼だが癖のある金髪と丸い瞳で可愛らしい姫と位置付けられている。
「仕方ないわねえ思春期娘はー。でもそんな顔してても思い人には何も伝わらないわよー。素直にならなきゃ、ティア」
ティアはぎろりとミザリーを睨み付ける。
そして懐から何かを取り出した。
「ミザリーお姉さまも素直になられたらどうですか?」
「………何よその小瓶」
「さあ何でしょう?試してみませんか?とても楽しいことが起こるかも、ですわよ」
楽しげに笑うティアを見てミザリーはさっと顔色を変える。
「……いっ、嫌よ!この間の薬だって半日強制的に踊らされて死ぬかと思ったんだから!」
「お陰でスッキリ痩せてお気に入りのドレスが着れたでしょう、よかったじゃないですか」
「もう二度とごめんよ、冗談じゃないわ!」
ミザリーは席を立ち、逃げるように出て行った。
「ティア、ミザリーを苛めないの」
「ミザリーお姉さまは食べすぎよ、ちょうど良いじゃない」
「全く困った子」
アリシアはおっとり笑う。
さすがのティアもこの姉には被害を及ぼしたことがない。怒らすのが恐ろしいのか、迂闊に手を出せない雰囲気を持っているせいか、兄は良く分からない。
「でもティア、ミザリーの言うことは間違っていないわ。素直にならなきゃ思いは通じないわよ?」
「分かっていますよ……」
ティア姫は怒りを押さえるように紅茶を飲み、王と王妃に目を向ける。
「それよりもお母様、私聞きたいことがありますの」
「まあなあに?」
「招待客の中におかしな人達がいるのですけど?」
「おかしいって何だい?招待客の身元は一人残らず調べてあるはずだ。間違いない」
口を挟んだパラレウスにティアが冷たい目を向ける。
「例え身元が割れても動きのおかしい人はいるものよ。分からないように見張りをつけておくべきだと思うの」
「……そんなに気になるなら君が直接会ってみればいいだろう?」
「お兄様は私が可愛くないのね?」
「……なななななんだって?」
「不審なものと対峙させて私に何かあったらどうしてくれるのよ?一生許さないわ」
兄は妹の不穏な口ぶりに寒気が走った。
この妹はやるといったら必ずやる。報復の恐ろしさは騎士隊の中では評判だった。
「……どうしろというんだ?」
「簡単なことよ。騎士隊を貸してくだされば良いのよ。そうね、一小隊でいいわ」
「分かった。では二番隊を」
「二番隊は使えないわ、隊長があれですもの。他の暇そうなのでいいわ」
「……分かった」
王子は脱力した。
