「つっまんないわ!こんなのただの余興じゃない!」
城の東にある塔の一角に王国専属魔法使いの住みかがある。
ティアは目附役の目を逃れる為にここを隠れ家にしていた。
「ティア様、その石は余興の道具ですと言ったじゃないですか」
魔法使いゾフィーは魔法の液体を混入させながら言う。
怪しげなローブを身につけボロボロの黒髪を垂れ流している彼は城の皆から不気味がられ余り人が寄りつかない。
寄り着く者といえば怪しげな秘薬をご所望の客とか、医者が手に追えない病にかかる患者とか、そんな者達ばかりだ。
しかし彼の腕は一流。何を造らせても最良なので天才魔法使いと誉れ高い。
だからこその魔法使いなのだが。
「もっと凄いの造ってよ!そう、城が吹き飛ぶくらいの!」
「そんな無茶な。そんなに吹き飛ばしたいものがあるのですか?ティア様は」
「そうよ!吹き飛ばしてやりたいわ!」
見目だけは麗しい姫はざっくり言う。全く手に追えない。
「ええと、幾らなんでも爆弾はまずいです。これなどはどうでしょう?
夜に空に投げると様々な色の火花が飛ぶものです。綺麗ですよ」
「いらないわ」
「ならばこれなどは?振れば美しい音が聞けるという貝です。お好みでお好きな音楽などを入れて差し上げますよ?」
「結構よ」
「……では精神の高揚を抑える効果のある香り枕などは?いい夢を見られますよ」
「あなた魔法使いでしょう?そんな物造って街で商売でもするつもり?」
「商売は出来ませんよ。ただ最近城内でそのような要望をしてこられるお客様が多くて」
「精神の安定?たるんでる証拠だわ、どこのどいつよ?」
「…………」
「――――ゾフィーどの、居られますか?」
外からドアを叩く音がした。ティアは素早く隣室に隠れる。
「居ますよー、開いてますからどうぞー」
「お邪魔します」
入ってきたのはとある下っぱ騎士だ。
「おやまた貴方ですか、どうされました ?……なんて聞くのは野暮ですね」
「いいえ!いいえ聞いて下さいゾフィーどの!最近本当にお腹の辺りがきりきり痛くて………。
どうしてあの方はああなのでしょう?
そしてあの人も鈍過ぎて……。間にいる私はもう……なぜ私が?分からない!何も分からない!いいやもう知りたくないです!」
「……鎮静薬入りのお茶です。どうぞ気持ちを静めて下さい」
「有り難うございます…、ううっ、私は隊長も尊敬しているし、綺麗な姫様も好きなんです、この仕事に誇りを持っているし仕事は大変だけどお役に立てているのが嬉しいし、不満なんかないはずなのに……。
最近悪夢ばかり見てしまって。何なのでしょう?この絶望的な言い知れぬ不安は?訳が分からない!」
「安眠枕を差し上げましょう、この貝で雑事を忘れるのも良いです」
「有り難うございます。でも、現実の悪夢はいつまで続くのか………」
その後、騎士は愚痴を言って帰って行った。だがすぐにまた同じような症状の客が数人続き、散々同じような愚痴を言って帰って行った。
最近何やら騎士達の精神に異常をきたす程の緊迫した何かが蔓延しているらしい。
だからと言って魔法使いはお悩み相談役ではないのだが。
お客を見送ってから部屋に戻るとティア姫が隣室から出てきた。
「何なの?最近の騎士は軟弱ね。うちの騎士隊大丈夫なのかしら?」
「………」
ふと、姫が持つ小瓶に目が行き嫌な予感を覚える。
「………姫様、隣の薬品部屋で調剤を?」
「他にやることないじゃない。長い間部屋に押し込められてたし」
「それは何の薬で?」
「分からないわ。効果を試してみないと」
ティア姫は新しい玩具を見つけたように無邪気に微笑み小瓶を持って去って行った。
―――また誰かが犠牲になるのか……。
ティア姫は何故かこの手の薬の調剤が得意だ。けして魔法使いが教えたわけではないがどこで覚えて来たものか、製法、効能などを知り尽くしている。
ゾフィーはぶるりと身震いして、何も見なかったことにした。
