貴婦人は薔薇が好きなのだと言った。なのでこの美しい薔薇の園に案内した。

「……素敵な庭ね」

とても気に入って貰えたようでルウドはほっとした。
嬉しそうに薔薇を見る女性は赤い薔薇をいとおしげに両手に包む。

褐色の髪を後ろで巻き上げ、髪と耳には真珠の宝石。首もとには光り輝くダイヤを身につけドレスは赤。上には白いべールを羽織っている。

この不思議な香水の香りはなんだろう?
彼女の魅力を際立たせる何かがある。

「……ジュリアさん、気に入って貰えて良かった。この庭は何代も前から専属の庭師が魂を込めて造り上げ守り続ける一品でして」

「まあ、そうですの?」

「はい、以前は赤い薔薇を中心に庭を手入れしていたのですがこの国の三人の皇女が生まれた年に薔薇を植え替えたのです。
赤薔薇、黄薔薇、白薔薇と。それから十六年、庭師の仕事のおかげでそれはもう素晴らしい出来で。今年の白薔薇も素晴らしい」

ルウドは白い薔薇をいとおしげに眺める。

「まあ、では白薔薇姫様もとてもお美しいのでしょうね」

「…………そうですね、お姿だけは」

ルウドは白薔薇姫を思いだし、笑顔がひきつる。

どれだけ大事に手入れをしてもなにぶん庭師が悪かった。 後悔なら山ほどしたが全て後の祭りである。

「お会いするのが楽しみだわ、噂高い白薔薇姫様」

出来ることなら遠くから眺めているだけで諦めて欲しいと思う。

「……あの、ジュリアさん」

「―――え?」

その時、周囲がざわめいた。紳士
淑女が慌てて庭から逃げ出す。

「うわああああっ!やばいこれ!逃げろ!急げ!」

「………何事だ?」

ルウドは騒ぎの場所へ進み、騒ぎの元を捜す。
足元に真珠の様な小さな玉を見つける。
拾い上げてみると玉には何か書いてある。


【暴発注意 目覚ましの素】


「……なんだこれは?」

意味が分からない。しかしこれの製作者については心当たりがある。
ルウドは薔薇園の外の川にこの石を投げてみた。
ドオン、という音と共に川に水柱が上がった。

「………」

それを見た周囲の人々が驚いて嬌声を上げた。
すると白い石が次々薔薇園に投入される。
園にいた人々は慌て驚きその場を逃げまどう。


「うわああああっ、冗談じゃないぞ!」

「なんですの?一体何なのですの?」

「なんだっ?戦争か?侵略かっ?」

「何が起こったんだあっ!」


護衛をしていた騎士隊の一団は混乱する客人達を宥めて即座に避難させた。

薔薇園はあっという間に藻抜けの空になった。

「……………」

勿論ジュリア嬢も避難させた。
さすが護衛騎士隊はこのような混乱に慣れているせいか仕事が速い。

全員を避難させて騎士の一人が報告にやって来た。

「隊長、お客様に被害はありません。隊長も避難しなければ。足元の爆弾がいつ暴発するか……」

「いや、大丈夫だ。下の石は全てただの石だ」


爆発したのは最初の二個。一個をお客の目の前で爆発させて、二個目をルウドに爆発させた。嫌がらせのやり口が巧妙である。

しかし嫌がらせの主でもこの薔薇園を破壊することなどあり得ない。
ルウドから離れた場所の赤い薔薇の端で長い金髪がサラサラ蠢いているのが見える。

「……お邪魔虫がお好みなのか、我が国の意地悪姫は」

わざと大きな声で言ってやった。
傍にいた隊員が何故かびくりと身じろいだ。