アリシアの部屋はいつも色とりどりの花ばなや高価な宝飾品などが飾ってある。
これはすべて婚約者とそれ以外の者達の贈り物である。

部屋に入ったティア姫は珍しい置物などをまじまじと見る。

「お姉さまもよくやるわね。せめて婚約者とそうでない者との贈り物は分ければいいのに」

「ふふふ、贈り物の区別はつけない主義なの。あなたの部屋は思い人の贈り物しかないものね」

「……お話ってなんですか?」

アリシアはソファーに座ったティアにお茶を入れて出す。

「ティア、気晴らしに明日遊びませんか?」

「…遊ぶって何を?」

ニヤリとアリシアは笑う。その顔は悪巧みを企むティアと瓜二つだ。

「ふふふ、前々から一度やってみたかったのよ。あなたもずっと部屋にこもりきりは良くないわ。
軽い気持ちでやってみるのもいいと思うの。ほら、見るものが変わると気分も変わると言うし、ね?」

「……ね、ってまさか」

「出来るわよね?出来ないわけがないわ、私の妹ですもの。
私だって完璧にできるわよ?何ならどちらが先にばれるか勝負しましょうか?」

「お姉さま…」

勿論この姉に逆らえるはずもなかった。



翌日、魔法使いゾフィーは困っていた。
いつものように朝食を終えたティア姫様がやって来たのだがいつもと様子が違う。

いや確かに最近彼女は塞ぎがちで様子が違っていたがそう言うことではなかった。

「まあ、これが有名な安眠枕ね?あっ、こっちが音を聞かせる貝?素敵!本当に音が聞こえるわ」

彼女は耳に貝をあてて嬉しそうである。

「あら、この棚の小瓶は何かしら?可愛い形ね?」

「あっ、それは危険な…」

「まあ、それじゃこちらの瓶は何かしら?いい香りがするわ」

「それはまだ試薬の、迂闊に触られては……」

「まあ…それじゃあ…」

「ーーー姫様!美味しいお茶があるのです、入れて差し上げましょう!さあこちらの部屋へどうぞ!」

調合部屋は危険なので姫を隣の部屋へ移した。調合部屋には鍵を掛けた。

ここはお客を入れる部屋である。いつもここで相談や依頼を受ける。
お茶をもらったティア姫はなぜだか不満そうだ。

「ねえゾフィー、惚れ薬とか造れるの?」

「造れますよ。一応魔法使いですから何でも出来はします」

「出来るのにやらないって勿体無い気がするわ」

「してはいけない事もありますから。王国に雇われいる限りその禁忌は守られ続けるべきと知っているのです」

「それもそうね、魔法使いが誓いを破ったら酷いことになりそうだもの」

「そうですよ。ところで…、本日アリシア様はどうされているのでしょう?」

「……変なこと聞くのね?アリシアお姉様に興味があるの?」

「あはははは…そうですねえ。興味はありますかねえ…」

姫の柔らかな視線が何かを疑うように突き刺さりゾフィーは焦る。

「ティア様、本日は調剤はお休みしてお城の散策などしてみてはいかがでしょう?とても良いお天気ですし気晴らしになりますよ?そうそう、湖の方に珍しい花が咲いておりましたよ」

「まあそうなの?じゃあ折角だし行ってみようかしら…」

「それがいいです、近くですからすぐ戻れますし、ゆっくり休まれてください」

ニコニコ愛想笑いをしながら姫を外まで送り届ける。

「それではお気をつけて」

姫と外で待っていた騎士たちを体よく追い払った。