勿論ティアは実験した。
しかし期待した効果は得られなかった。

あらゆる生き物の悩みが解消されるというからどんなすごい薬なのかと楽しみだったのだが…。
やはり使い方を聞いておけば良かったか。

目の前のうるさい騎士五人に効能を試してみたがいきなりパッタリ気絶しただけで他に変調は見られなかった。
面白くない。

「ティア様、居られますか?」

「あらちょうどいい所に、ゾフィー。この薬なんだけど」

部屋に入った魔法使いは中の惨状を見て息を洩らす。

ティア姫の持つ薬は霧吹きに入っているので使われた量も微量。
だから気絶するだけですんだのだ。

「姫様、それはそのように使う薬ではありません。別の薬と組み合わせて使うものです」

「どういうこと?」

「例えばですね、猛毒と混ぜれば毒は無効となります。薬と混ぜればそれは毒となります。
さらに姫が開発した口が滑りやすい薬と混ぜれば口数が減る薬となります。
媚薬と混ぜれば恐らく強烈に人嫌いになる薬になるでしょう」

「つまり混ぜた薬と全く逆の効果を出す薬と言うことね」

「量によって効果が違ったりしますので確実な効果は余り言えません。
ですがそれは単品ではかなりの猛毒です。ちょっと霧吹きでかけただけで彼らのように気絶してしまう。
悪くすればショック死です。くれぐれも使用法を誤りませんよう」

「…それは、悪かったわ…」

ティア姫は心配そうに倒れたままの騎士たちを見る。
いつも煩い彼らだが幾らなんでも殺す気はない。

「…彼ら、このままで大丈夫なの?」

「毒を中和できれば大丈夫です。なにか中和できる薬品があればいいのですが」

「……じゃあこれを」

「なんですこれ?」

「口が滑る薬。使えば静かになるかしら?」

「そうかも知れませんね……」

ゾフィーは騎士達に薬を嗅がせた。
それだけで、すぐに彼らは意識を戻した。

「分かったわ、これからは気を付けることにするわ」

「…えっ、姫様?それ私の薬…」

「少しだけよ、後は返しておくわ。心配ご無用」