いつも元気な姫様に悲しげな顔をされるとゾフィーは弱い。いやおそらく城内外の男すべてが弱くなる。

「…分かりました、媚薬を調合しましょう。弱い薬ですから効果は短いものになりますが」

「本当?有難う」

姫はニッコリ微笑む。この笑顔は姉姫様と全く同じだ。

マルス国の白薔薇姫と呼ばれる第三皇女ティア姫は、明るく気さくで冴え渡る美貌と輝きを持つ自国他国の男達の憧れの的だが城内の一部の者達には意地悪姫と呼ばれて恐れられている。

それでも求婚する男など後を絶たない程で彼女も選り取り見取りなはずなのだが、よりにもよって彼女の思い人は意地悪姫と言って姫の外見など意に介さない部類の者だった。

何でよりにもよって彼なんだ?と思うが仕方がない。
彼は元々姫を愛しんで育てた者だ。

「でもそんなものを使う前に話し合いをされた方が良いですよ?」

「この間すごく怒らせてから口もきいてくれないもの。あれだって私のせいじゃないのに…」

「……」

ルウド隊長は自分の口のせいでティア姫の報復を受けたが当人は全く分かっていない。

どうせいつもの嫌がらせだろうと怒り、ここのところ姫の傍には全く近づきもしない。

二人の仲が余計こじれた。
簡単なビックリ玉などを造って姫に差し上げてしまったゾフィーは少なからず責任を感じていた。
あれだって寂しげな彼女を慰めるために造った一品だったのに…。
なかなかうまくいかないものである。

「ゾフィー殿、いらっしゃいますか?」

外からドアを叩く音がする。

「ハイハイ、今行きますよー」

部屋を出て外の戸を開けると騎士たちが五人ほどいた。

「おや、どうかしましたか?」

「ティア姫様はまだいらっしゃいますか?そろそろダンスレッスンの時間なのですが?」

「そういえばそうだったわね」

ティア姫が出てきて面白くもなさそうに言う。

「次のパーティのための準備だそうよ。
馬鹿馬鹿しい、パーティーなんて参加したい人がすればいいのよ。私は全く楽しくないわ」

「姫様、そんな…」

最近姫は沈みがちだ。そんな寂しそうな姫の様子を見て騎士たちが次々に声をあげる。

「ティア様、私でよろしければいつでもお相手いたします!」

「お、俺だって!いつでも準備できてます!」

「私とて喜んでお相手しますよ!」

「僕だって待てます!」

「俺だって!」

「……分かったわよ、煩いわね」

ティア姫はとっとと魔術師の塔を出ていった。

騎士たちも後を追う。
彼らはそもそも姫の護衛をするために来ていたのだが、塔の中へは煩いからという理由で 姫に入室を禁じられていた。
ずっと外で待っていたのだ。

ゾフィーは塔の中の調剤部屋に戻り、入って何か違和感を感じて周りを見る。

「……?」

今造ったばかりの透明の液体が入った緑白色の小瓶が見当たらない。

……まさか姫が?

具体的な効能などは全く教えていないのだから誰かを実験台にすることは間違いない。

「……」

魔法使いは瞑目した。