「新薬を開発するわ!」

数日前からそう言ってティア姫は調剤部屋に隠った。
三回の食事の時間以外はここのところずっと引きこもっている。

その間は周囲に害がなく平和で静かな日々を送ることが出来るが後が怖い。

新薬ができれば誰かが実験台にされる。

平和な日々を送る騎士達の内心は不安で一杯に違いない。

そんなことを思っているうゾフィーも時には魔法使いらしく調剤もする。
王宮魔法使いなので城内の人々の依頼で腰痛や腹痛の薬も造るがたまに使用上注意すべき薬品を調剤してみたりもする。

そう言う薬はけして公にはせず、こっそり効果を試したりする。

天才と誉れ高い彼の隠れた趣味であり、ささやかな楽しみだ。

「ふふふ、完成だ」

調合した無色透明の液体を緑白色の丸い小瓶に入れる。

「あら、なんの薬が出来たの?」

「最高の薬です。これさえあればあらゆる生き物の長きにわたる悩みが解消されるという一品です」

「…そう…?」

隣のテーブルで調合をしていたティア姫が不満そうに緑白色の小瓶を見る。

「ねえゾフィー、あなた魔法使いなのだから基本どんな薬でも造れるのでしょう?」

「はい、まあなんでも造れますよ?一応国専魔法使いの規則がありますから余りやばい薬は出来ませんが」

「やばい薬の基準が分からないわ」

「一般には人の命をとる毒物ですね」

「じゃあ人を意のままに操る媚薬とか良いわけ?」

「うーん、駄目ではないですが所詮薬ですからねえ。効果が切れた後の事を考えると色々とねえ」

「記憶を消してしまえばいいのよ」

「それも永遠ではないですよ?いずれ思い出すものです」

「永遠ってないの?」

「それはありません。例えばですね、ティア様が誰かに薬を使って永遠に思い通りに出来たとします。
その誰かはそれで姫のものになりますが姫はそれが薬の効果と最初から知っているでしょう?
偽物であることを知っていてあなたは彼と永遠にすごせますか?
年を重ねるごとに辛くなって心が壊れてしまいますよ?」

「…私そんなに弱くないわ」

「媚薬に頼らねばならないほど苦しんでいる人が強そうには見えませんよ?」

「永遠なんて私にはどうせ手に入らないわ。薬を使いでもしなければ無理よ。
別に永遠でなくてもいいのよ?ただの一時でも、一瞬だっていいの…」

「…ティア様…」