それは暖かな日差しが包む昼の時間。
 王宮敷地内の薔薇の園では美しい色とりどりの花が咲き、その傍らではきらびやかなドレスを身に纏った高貴な淑女がどこかの紳士に愛の告白などをされている。

 周囲など全く気にしない、ただ二人の世界。


「ああお嬢様、あなたは今日も美しい、周囲の薔薇すら霞んで見えてしまう。
 私の目には貴女しか映らない。その真珠のような肌に触れるお許しをいただきたいのです」

「まあジニアス様、私の目にもあなたしか映っておりませんわ。
 あなたに触れられたいと思うのははしたない事でしょうか」


 二人は抱き合う。






「……見てらんないわ、二人の世界。見苦しいったらないわ、何でああも周囲が気にならないのかしら?」


 彼等の周りには同じような頭に春が来ている紳士淑女がゴロゴロいる。

 薔薇園は別に彼等の為の場所ではない。


「……姫様、嫌なら見なきゃいいでしょう?」


 第三王女ティア付きのメイド、マリーが呟く。


「薔薇を取りに来たんでしょう。お茶に浮かべるのよ」

「そうでしたね…」


 それはただのついでで大義名分である。
 ティア姫の注視する所は他にある。

 姫の見る先には二人の男女がいる。
 女は美しい薔薇園をうっとり眺め、男はそんな彼女を熱く見つめる。

 女は最近舞踏会に現れる二十歳の貴婦人、男は我が国マルスの王国騎士隊二番隊長ルウド=ランジール二十八歳。

 ガーデンパーティー会場から薔薇の園に来た二人は楽しく話している。

 余裕があるのは婦人でぎこちないのはルウドだ。


「……いい年して恥ずかしい、なにやっているのかしら」

「姫様、そろそろ戻りましょう?覗きはいけませんよ」

「気になるじゃない、マリーも気になるでしょう?」

「ええ、それはまあ……」


 マリーはちらりと二人の方へ目を向ける。

 王国騎士のルウドは騎士隊の白い制服を着込んでしっかり銀髪を後ろに束ねている。

 城の女性達の憧れの的だが性格が朴念仁と来た。
 本人悪気はないだろうがはっきりモノを言い過ぎるので泣かされた女性が数知れずいるのを知っている。

 その彼が恋をした。
 それは物凄く気になる。

「ルウドがあんな派手好みとは知らなかったわ」


相手の女性は二十歳の貴族の淑女。
情熱を思わせる赤いドレスを着込んで髪や首や指などに宝石を沢山はめている。
赤い薔薇を思わせる女性だ。
白い薔薇と呼ばれるティア姫とは全く逆のタイプである。

「……何処が良いのかしらあんな人?やっぱり胸かしら?派手に大きな胸を出しているのが好みなのかしら?全く嫌らしいわね男って……」

勝手な憶測で姫は呟く。マリーは言葉もない。

「姫さま、そろそろ会場にお戻りになら
ないと」

「嫌よ、ここで酔ってる連中の目を覚まさせてやらないと」

「……姫様」

マリーはもう神に祈るしかない。