『7日目!もう、会える最後の日だな。元気でな、繋!』


「元気で...。」


溢れそうな涙を堪えて、あたしたちは仲間の方に駆け寄る。
そこでは繋に最後の別れを告げる仲間たちの姿があった。


「また遊びに来いよ!」

「俺らも遊びにいくし!」

「連絡しろよ!」


また会える、という希望に満ちた仲間たちの言葉に、繋は切なげに頷いた。


「もうそろそろ、時間かな。」


あたしがそういうと、繋は頷いた。


「またなー!」

「大好きだぞ、繋!」


繋はその言葉に答えるようにブンブンと手を振った。


そして、仲間たちが見えなくなると、繋は真面目な表情であたしを見つめた。


「母さんとその男が会うのは、あの角を曲がったところの道です。そこで、一人で歩いている明音さんに、その男は連れがいないと判断して声をかけたんです。」


繋は分かりやすく説明してくれる。


「だから...僕がいれば、連れがいると判断して声をかけてこないはずです。その男とすれ違った瞬間、未来は変わります。明音さんはその男と会うことはなくなる。」


それは、繋と会えなくなることを意味していた。


「...分かった。」


あたしは曲がり角まで来たとき、それらしき男を探した。


「あ、あの男です...!」


繋が指を指した先には、口髭を生やした一人の男。
確かに優しげに見える。
その優しげな顔、声、言葉に、あたしは騙されたんだ。


「明音さん...騙されないでくださいね。」

「騙されるわけねぇだろ。好きになんかなんねぇよ。」


あたしは繋とゆっくり歩みを進める。
その男は徐々に近づく。

距離が、縮まっていく...。


50メートル。


「繋...手、握ってもいいか...?」

「はい。」


あたしは繋手をギュッと握る。


40メートル。


お互いがいる、と安心できるように手を握り、その男を見つめる。


30メートル。


「繋...。」

「明音さん、大丈夫です...僕、ここにいます。」


繋は落ち着いた声でそう言った。


20メートル。


怖い、怖い...。

繋が、いなくなってしまうのが。
繋と二度と会えなくなるのが。


10メートル。


あたしは繋の手を振り払ってその男の元に行きたくなった。
今ならまだ間に合う。

だけど、繋はあたしの手をギュッと強く握っていた。
この手を振り払うことなんて...出来ない...。


9メートル、8メートル、7メートル...。

その男との距離が近くなっていく。
繋との距離が遠くなっていく。


6メートル、5メートル、4メートル...。


私は逃げ出したくなる。
こんな状況、一生に一度だけだ。
これから先、こんなことない。


「明音さん、僕...明音さんのこと、大好きです。生きる希望がなかった僕を、救ってくれたから。僕、やっと消えたくないと思えました。明音さんと楽しいこと、いっぱいしちゃったから...。だけど、僕は間違ってるとは思わない。明音さんのために、消えたい。」


涙が溢れそうになるのを堪える。
繋とは笑顔でバイバイしたいから。


「ありがとう、繋。あたしも繋と離れたくない、失いたくない。だけど、あたしは繋との約束を守るために、幸せになるよ。」


そういうと繋は、嬉しそうに微笑んだ。


そして...。