繋は涙を拭い、あたしに微笑んで見せた。
『もう大丈夫』
そんな表情。

『大丈夫じゃねぇだろ』
あたしは繋の頭をクシャクシャと撫でた。

そして、あたしはこれからのことを考え、繋と話そうと思った。


「信じるよ。繋の話。あたしがその男と会いさえしなけえば、そんな未来は来ねぇんだろ?」

「はい。」

「分かった。あたしはそんな男と会わないように努力する。そうすれば、あたしは他の人と結婚して、繋、お前が産まれて...」


そこまで言って、あたしはあることに気がついてしまった。


「繋...これって...。」


繋は全てを察したかのように切なげに微笑んだ。


あたしがその男と出会わないということは
あたしがその男と結婚しないということは
あたしがその男との間に子どもを産まないということは

繋は産まれてこないということだ。


「繋、お前...産まれてこないってことかよ...。」

「そう、なりますね。」

「そんなの...許すわけねぇだろ!そ、それに、お前が未来からきたっつーことは、未来がもう決まってるんだろ?だったらそれを覆すことなんて...」


あたしは困惑を隠せない。

繋がいなくなるなんて、考えられない。
未来は決まっている、だから繋は産まれてくる。
その考えを繋にぶつけた。
確かにそうだって、僕は産まれてくるんだって、そんな答えが欲しかった。


「未来は変えられますよ。明音さんにその気があるなら。未来は、いくらでも変えられるんです。だから、明音さん。未来を変えてください。」

「そんなの...だったらお前がいた未来の空間はなんだったっていうんだよ。」

「幻、ですね。夢と同じ。明音さんが未来を変えた瞬間、僕という存在も、決められていた未来も、全て明音さんの夢だということになるんです。」

「嫌だ...そんなの、あんまりだろ...。」


繋はあたしが不幸にならないように命を懸けてここに来てくれた。
そんな繋が、幸せになるどころか存在さえ無くなってしまうなんて、そんなの、あんまりだ。


「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!」

「明音さん!!!」


繋は怒鳴るように叫んだ。


「...僕は、こんな未来望んでない。明音さんが幸せになる未来を、僕は望んでるんです。そのために僕は消える。それは仕方がないことなんです!もう、あんな母さんの姿...見たくないんです...。」


繋の弱々しくもしっかりした口調に、あたしはただただ涙を流すしかなかった。