泣くこともせず、俯いて一つ一つ言葉を紡ぐ繋。
その繋の目は、無機質で、作り物のようだった。

繋だけが知っているあたしたちの未来。
未来で繋は、ずっと今のように無機質な目で、世界を見ていたのかもしれない。


「これが未来の全てです。僕は、明音さんがその男と会わないようにこの時代に来たんです。」


あたしの目には、涙が浮かぶ。
信じずにはいられなかった。
繋は、あたしの息子だ。


あたしは繋をぎゅっと抱き締めた。


「え...?」


繋は戸惑っているようだったが、あたしは強く強く抱き締めた。



「...今まで、よく頑張ったな。」


そうだ、繋はよく頑張った。
男に騙されて泣いてばかりだったあたしに甘えることもできず、自分一人で全て抱え込んで。
繋だって、父親を失って辛かったはずなのに、泣くことさえ出来なくて。

『自分は誰からも望まれていない存在だ』

そんなことない。
繋は、あたしにとって大切な存在だ。
今のあたしに親としての感情はない。
繋はあたしの初恋の相手だ。
だから繋が存在することを望む。


「繋、出逢えてよかった。」


あたしのその一言に、繋はボロボロと涙を流した。

繋が見せた、やっと重荷を下ろせたという安心に包まれた涙。
今までどれだけ親に甘えたかったか。
今までどれだけ寂しさに耐えてきたか。
そんなの、あたしなんかには到底分かりきれないだろうけど。
それでもあたしは、繋の重荷を一緒に抱えてあげたかった。


「あたしなんかのために、ありがとな。」


繋は首を横にふる。


「明音さんだから、です。」


小さく繋は、そう呟いた。