そんな時だった。
外を散歩していた時、学生の会話が僕の耳に入ってきたんだ。


「なぁ、知ってるか?あの噂。」

「噂?」

「ああ。本気でタイムスリップしたいと思うなら、高いところから落ちればその願いが叶うんだとさ。」

「は?なんだよそれ。」

「結構有名だぞ?実際にタイムスリップしたいと思って飛び降りた奴とかいるらしいんだ。」

「ヤバくね?自殺行為だろ。」


その学生の会話に出てきた噂というものが、僕は気になった。

何度、過去に戻りたいと思ったことだろう。
何度、母さんを楽にしてあげたいと思ったことだろう。
もしそれが本当なら、母さんがその男に出会う前に、その運命を変えてあげたい。
こんな未来を、消し去りたい。


僕はその日の夜、屋上の端に立っていた。
母さんはもう、寝ている時刻。
夜風はひんやりと冷たくて、だけどそれが妙に心地よかった。

もう、こんな世界とはさよならなんだ。
誰もが幸せな未来にするんだ。

待っててね、母さん。
すぐに楽にしてあげるから。
きっと、笑顔で生きていけるようになるよ。
あんな男との未来、抹消しよう。

僕は小さく微笑んだ。

そして...


残酷なほどに綺麗な星空に、身を委ねた。