これは、僕が過去に飛ぶ前の話。
死なんかより絶望的な、僕と明音さん...母さんの生きる現状。


僕が産まれる前から、話は始まる。
何度も何度も母さんは僕にこの話をしていたから、もう有名な昔話みたいに覚えちゃったよ。
まぁ、昔話みたいに終わりもないし、重すぎて子どもは引いちゃうだろうけど。

母さんはある男と恋に落ちた。
その男は恋に不馴れな母さんを落とすのは簡単だったみたいでさ。
甘い言葉を囁いて、明音さんを惚れさせた。


「愛してるよ、明音。」

「やっぱ俺には明音しかいないよ。」


そんな言葉に騙されて、母さんはその男に引き込まれていった。


そして、母さんは子どもを身籠った。
愛する男との子どもだって、母さんは喜んだ。
考えればその一瞬だけだったんじゃないかな、僕が産まれることを望まれたのは。


「あなたとの間に赤ちゃんが出来たの!」


嬉しそうに言う母さん。
だけどその男は、そんな母さんに一言吐き捨てて出ていった。


「下ろせよ、そんなガキ。お前と家族を作る気なんか元々無かったんだ。お前はただの金蔓だったんだよ。」


そんな最低な一言を残して。

母さんはその言葉に傷ついて、ずっと泣いていた。
昔の仲間とも、母さんは既に縁を切っていたから、頼れる人なんて誰もいなくて。
それもその男の作戦だった。
母さんが不良仲間に相談して面倒ごとにならないようにって、その男が縁を切らせたんだ。

母さんは独りぼっちの世界に耐えられなかった。
だから僕を産んだんだ。

『繋』
私が繋がっているのはこの子だけ。
私に人との繋がりを感じさせてくれる唯一の存在。
僕の名前はそんな意味らしい。

だけど僕を産んだことで、母さんは余計苦しかった。
僕はその男との子ども。
似てない訳がなくて。
母さんはだからって僕に暴力を奮うようなそんな最低な親じゃないよ。
でも、僕の顔を見れないみたいで、いつも顔を伏せて泣いていた。


「母さん、ごめんね、ごめん...。」


物心ついた頃から、僕は母さんに謝っていたと思う。
よく分からないけど、母さんを苦しめているのは僕なんだって分かっていたから。

いくら謝っても母さんは何も言ってくれなかった。
食事も作ってくれなかった。
母さん自身も、ほぼ食べてなかったんじゃないかな。
だから僕は体調を崩しやすくて、不便な体だった。
熱が出ても、母さんに頼ることなんて出来なくて、ずっと一人で耐えていた。