「ヒーラギ、大丈夫だったか?」

「あぁ...繋の様子は?」

「...かなり熱が高い。」

「...そうか...。」


あたしはぐったりとベッドで寝ている繋を見ながら言った。

あれからあたしは織井に電話し、繋をおぶって織井の家に行った。
そして、織井が看病をしてくれて今に至る、というわけだ。


「...悪かったな、電話であんな言い方して。」

「いや、目が覚めた。サンキュな。」


あたしは織井に礼を言うと、繋の額に乗っている冷却シートを替えた。


「ん...っ。」

「わりぃ、冷たかったか。」


あたしがそういうと、繋はうっすらと目を開けて、私を見つめた。


「繋...?」

「...やっと...やっと僕のこと、見てくれたんだね。」


繋は目に涙を溜めてそう言った。


「母さん...いいよ、僕は大丈夫...一人で出来るから...無理しないで...?」

「母さん...?」


織井が首を傾げた。


「...まさか、本当なわけ。ただの人違いだよ。」


あたしは混乱してしまう。
だけど確かに繋はあたしの名前を知っていて、あたしを親だと言っていた。


「...織井、今は少し、繋と二人にさせてくれないか?」

「あ、ああ。もし何かあれば呼べよ。」

「ああ。ありがとな。」


織井は小さく微笑むと部屋を出ていった。


「...繋、熱に浮かされてるのか。早く良くなるといいな。」

「ううん、いいよ。良くならなくて。ずっとこのままがいい。母さんがずっと、僕のことを見てくれるなら。」


...もし、もし本当にあたしが、繋の母親だとしたら、どれだけ最低な親だったんだろうか。
ずっと我が子である繋を、見てあげなかったということだろう。


「繋、今まであたしは、繋を傷つけてたのか?」

「そんなこと...ない...悪いのは全部全部、あの男だから...だから母さんは、これ以上苦しまないで?」


繋の母親は何に苦しんでいるのだろうか。
そして、それがあたしかもしれないだなんて。


「...看病してもらった記憶、無いなぁ...初めてかも...。でも、母さんは悪くないからね!自分を責めちゃ駄目だよ?」


看病をしたことがない?
じゃあ繋は体調を崩したとき、どうしていたんだ...?

次から次へと疑問が浮かぶ。


「ごめんね母さん。僕、何も出来なくて。僕のこと、恨んでるでしょ...?」

「...そんなこと...ねぇよ...。」


泣きながら悲しい言葉を並べる繋に、そう言うのがやっとだった。

繋に聞きたいことがたくさんある。
今すぐにでも問いただしたいというのが本音だ。
だけど、今は繋に元気になって欲しい。

繋...。
もしもあたしが本当に繋の母親なら、どんな奴なんだ?
繋をここまで苦しめて、耐えさせて...どれだけ最低な奴だったんだ?
どうしてそんな親を、お前は恨んでねぇんだよ...。