家につくと、私は男の子を部屋にあげる。


「ここが明音さんの部屋かぁ...。」

「ああ。普通だろ?」


あたしの部屋は昔から変わらない。
模様替えもせず、本当にごくごく普通の子供部屋という感じだ。


「で、聞きたいことがあるんだけど。」

「あ、はい。どうぞ...。」


男の子はあたしを見つめる。


「あのさ、なんであたしの名前を知ってるんだ?」

「あぁ...その事ですか...。出会った時、やっちゃったなぁって思ってたんですよ。言いましたよね、僕は明音さんに恩を返すためにここに来た。だから、以前あなたに会ったことがあるんです。」

「悪いけど、あたしはあんたのこと、知らないんだけど...。」

「それはそうだと思います。でもいいんです。僕は明音さんにお世話になったんですから。」

「そう...なのか?」

「はい。」


あたしは全く覚えがない。


「あんたの名前は?名前聞けば、思い出すことあるかもしんねぇし。」


あたしは男の子のそう言った。
もしかしたら、思い出せるかも...そう思って。


「僕は、ケイって言います。」

「ケイ...?」

「はい。繋がるっていう漢字でケイって読むんです。」

「...わりぃ、思い出せないや。でも変わった読み方だな。繋がるでケイって。」

「そうですよね。でも僕は、いい名前だと思ってます。」


繋は誇りを持つように言った。
確かにいい名前だと思う。
人と繋がってるって感じが。


「そんなに考えられている名前つけられるなんて、愛されてんだな。」


あたしがそう言うと、繋は「そう、ですかね...。」とヘラッと笑った。


「繋。」

「なんですか?」

「いや、礼言っとこうと思ってな。喧嘩の時も、コンビニの時も、今日のサッカーボールの時も。繋には世話になったし。」

「そんなのいいんですよ。僕は明音さんに恩を返したいだけなんです。」


その事が問題点だ。
あたしは繋に何をしてやったというのだろう。
何をしてやったか覚えてないなんて、なんだモヤモヤする。


「それに...僕は、明音さんにお礼なんて言われるほどいい人じゃない。」


その表情は真剣そのもので、あたしはよくわからなかった。

でも繋はいい奴だし。


「繋はいい奴だよ。」


あたしがそう言うと、繋はふわっと微笑んだ。