「なぁ、本っ当に覚えねぇのか?あのガキ、お前になんかしてもらったんじゃねーのかよ。」

「だから知らねぇって。」


下校時間、グラウンドの横の道を歩いていた。
もう前回も合わせれば数十回は聞かれているその質問に顔を歪める。
耳にタコだ。


でも...恩返しってなんの...?
あたしはあの男の子に何かした覚えはない。
というか、会った覚えさえない。

親戚にもあんな子いなかったし。


そう考えていると、「危ないっ!」と声がした。


「え...?」


あたしはふと、グラウンドの方を見た。

すると、サッカーボールが勢いよく飛んで来るのが見えた。


もうダメだ...避けられない...!


あたしの体は動かなかった。

そしてすぐ、ボールが当たった音。


...でも、痛みも衝撃も感じなかった。

目の前には、見覚えのある後ろ姿。


「あ...。」


あの男の子だ、そう思った瞬間、その男の子の体がグラリと傾いた。

その体は支えを無くし、地面へと吸い込まれるように崩れ落ちていく。


「ちょ、ちょっと...!」


あたしがそう声を出すと、サッと織井が男の子を抱き抱えた。


「大丈夫か?」

「あ...すみません...急に動いたから、ちょっと貧血で...。」


男の子は笑顔を見せるが、顔色が悪い。


「...なぁ、どうする?保健室とか、行った方がいいか?」


仙田がそう言うと、男の子はふるふると首を振った。


「大丈夫、です。ちょっとしたら、すぐ治ります。」

「じゃあ、少しこのままにしてた方がいいな。」


織井は男の子を抱き抱えたまま言った。


そして少しすると、男の子は体を起こした。


「すみません、もう大丈夫です。」

「そうか。」


織井は男の子からゆっくり手を離した。


「じゃあ、僕はこれで。ご迷惑、お掛けしました。」


男の子はこの前もあたしを助けるとすぐにどこかへ行こうとする。


「待てよ!話したいことがある。」


男の子はあたしの声に足を止めた。