「弱いって言われた」

「え?」

顔をあげた杏奈は泣いているのではなく、怒っていた。

「「お前は女の子なんだから」って言われた!」

隆一は杏奈の怒りに圧倒された。

「去年のクラスでは、私のこと女扱いしたやつなんて一人もいなかったのに、あいつは私を女扱いしたんだ!」

「あいつって……?」

「大地だよ!」

「お前も大地か……」

どうやら、文化祭の出し物を決めていて、ほとんど杏奈が考えていた事に決まっていたのに、大地がそれをひっくり返したらしい。

それは、杏奈の企画よりはるかに面白いもので、皆もそれに賛同し決定。そして、それに向けて動き始めた。杏奈もみんなが決めたことだから仕方ないと思い道具を揃えたりいろいろ頑張っていたら
「無理すんなよ。お前は女の子なんだからさ。こんなの俺らが運んでやるよ」
とか言ってきたんだと。

「なんなのあいつ……!」

隆一には杏奈が必死で涙をこらえているように見えた。食いしばる歯が少し震える。

「えーっとさ、……すげーカッコわりいことしていい?」

隆一は大きく息を吸い込んだ。

「どうして僕じゃないんだ!どうしてよりにもよって大地なんだ!冗談じゃない!僕は大地と違って、小学生からサッカーをやってるんだ!高校入ってから始めたようなやつに、絶対負けない!負けてたまるか!!」

「……いいじゃん、私にも言わしてよ」

「ああ」

「絶対あいつの前で弱みなんか見せるもんか!あたしは弱くない!企画だってやりようによっては私の方が面白かったかもしれないんだ!次は絶対負けないんだから!」

図書館にいる人達がジロジロとこっちを見る。図書館員が飛んできた。

「図書館ではお静かに!」

隆一と杏奈は自分の口を押さえ、笑い転げた。

「なんなんだろうな、僕たち二人して大地に振り回されてさ」

「ふふ、しょうがないんじゃない。だってあいつ、腹立つけどいい奴なんだもん」

「そうだな」

笑っていたら、杏奈の頬に涙が流れた。杏奈は見られまいと横を向き、急いで涙を拭った。

隆一が思わず杏奈の頭に手を置くと、その重みで杏奈は下をむいた。