詩月はリリィが亡くなって、初めて素直になれた気がした。



認めたくなかったリリィの死を受け止め、悲しいと感じ弔う気持ちをめいっぱい音にのせ、ヴァイオリンを弾いた。



 母親からもらった弦。

母親がチャイコフスキーコンクールに出場し、ファイナルまで使ったという弦を、今日はヴァイオリンに張っている。



心強い応援と母親の思いも背負った演奏。



客席の空気は静寂と緊張で凍てつき、突き刺すような視線が、詩月に向けられている。



が、それさえも詩月には心地よかった。



曲を弾き終え、詩月は涙を隠すように深く一礼する。ゆっくりと……。




一呼吸おき、涙を拭いながら、顔を上げるが何もない。



物音1つ立たない。



数10秒。


張りつめた空気と沈黙が続いた。