詩月はロビーで頭を冷やし気持ちを落ち着け、舞台裏へ戻った。

ちょうど、詩月の前の演奏者が舞台に上がったところだった。

安坂と本選で競り合うのは、彼女だろうと噂をされている演奏者だ。

正確でミスの無い演奏は、安坂にも全く引けをとらない。
音色も技術も素晴らしいと思う。

詩月は観客が彼女の演奏に聞き入り歓喜し、一体になっているのを肌で感じた。

 彼女の演奏が、観客を抱き込んだまま終了すると、怒濤のような拍手が鳴り響いた。

詩月はそれを聴きながら、ヴァイオリンを胸に抱え込んでいる。

詩月の体は痙攣でも起こしているのかと思うほど震えている。


「周桜?」

振り返る詩月の体が、ふらりと揺れた。

安坂はハッとし、詩月の体を支える。