皇女論争はヨーロッパの王室を巻き込んで長い間、世界中を駆け巡った。


今でもその謎めいた生涯は、解明されていないらしい。



 リリィの60年半ばの生涯には語れない、明かせない過去や秘密もあるのかもしれない。



コンクールの楽屋で、自分の順番を待つ間、詩月はずっとそんなことを考えていた。



詩月は、幾度かピアノコンクールに出場している。



詩月はコンクールの演奏前に、いつもリリィが「舞台に上がり緊張したら知っている人の顔を1人見付けなさい」そう言って、励ましてくれたことを思い出した。



 詩月が舞台に上がり真っ先に探すのは、リリィの顔だった……。



探すべき人がいない、聴いてほしい人がいない。