金木犀のアリア

防音効果を施した教室。


扉が閉まっている時は聴こえない音が、数センチ開けた隙間から聴こえてきた。



母親の弾くヴァイオリンの音色。



もう演奏家としては弾けない母親の演奏。



変形した、白く長い指が巧みに動き、指盤を叩くたびに澄んだ音が鳴る。



これで演奏家として弾けないなんて……。



こんなに綺麗な音がまだ出せるのに……。



こんなにも胸を打つ演奏ができるのに……。



厳かな調べ。

神々しさ漂いながら、窓から差し込む陽射しのように詩月の体中を包みこんでいく。



母親の奏でる「アヴェ・マリア」は、教会の祭壇に微笑み、全てを照らす聖母を思い出させた。