金木犀のアリア

安坂は、一言一句に力を込めた。



安坂の目には涙が滲んでいた。



「安坂さん、それをリリィ……僕の恩師も祈っていると思います」



詩月はヴァイオリンを胸に抱きしめた。



ふいに白い猫が、顔をあげ2人を交互に見て小さく、一声甘えたように鳴いた。


 翌日。

詩月と郁子は授業終了後、勇み足で大学の音楽科へと急いだ。



昨日、「懐かしい土地の思い出」の演奏後に安坂は「明日の放課後、音楽科の演奏履歴を視聴できるよう手配しておく。

受付には話を通しておくから楽譜書庫へ来い」と言った。



「音楽への情熱を失ったヴァイオリニストが、どれほどの弾き手だったか……聴くといい」



詩月は安坂の言葉には、何故今は弾けないのか?
何故弾こうと努力しないのか? そんな思いを感じた。