「…俺の顔見て言ってよ、ユズ。
……俺のこと嫌いなら嫌いって言って」
そう言って無理矢理私の顎を掬って持ち上げた彼。
自然と私と彼の視線が重なる。
彼の熱が伝わる。
そして彼の鼓動も。
この距離だからこそわかる彼の表情。
街灯に照らされて浮かび上がる彼の表情が予想外で…。
こんな苦そうな彼の表情は、彼と出会って何度か見たことがあった。
泣きそうな、悔しそうな顔。
…私が危険な目に遭った時だ。
だから言葉を発するはずだった口は言葉を失ってしまった。
余りにも彼の表情が悲しくて…。
そんな顔をさせているのが私だと思うとこれ以上何か言ってはいけないような気がしたから。
「…なぁ…言ってよ、ユズ」
懇願する瞳
そんな彼の瞳に私が弱いと知りながら彼はやっているのだろうか?
私のほとんどを知っていた彼。
それも私以上に。
だからこそ私は彼に何も言えなくなってしまうのに…。
「…わ、私…は……傷つけたくない。
…嫌いって思ったことはない。
でも!
……でも…近づいてはいけないと思う」
傷つけたくない。
だから近づかない。
なんて甘いんだろう、私。
ここで今嫌いだと断言しなければ、彼も私も過去を断ち切れないというのに。
私の中にある甘さは、彼だ。
正確には、"彼への想い"
未練がましいと思う。
彼を傷つけたくないから離れなければと思っているのに、こうやって繋ぎ止めるようなことを言うのだから。
結局後で傷つくのは、
私と彼の両方だというのに。


