「……ユズはそう言うけど…



じゃあユズだってわかれよ!」


そう私に声を荒げた彼を初めて見た。

仲間を傷つけられて怒鳴る彼を見たことはあった。
だけど私に向かって怒鳴ったのはこれが初めてだった。

そんな彼に言葉が詰まり、口を開いたものの何も発することはできなかった。



「…俺だってあの時思ったんだよ…。



…もしユズが死んだらどうしようって!

俺が守るなんて言っておきながら、何度も何度もユズは傷付いて…。


あの時ユズがいなくなったら俺は…
一生自分を許せないままだった。


ユズがあの時のことを悔やんでたって、
俺のことを恨んでたって…

俺はあの日のことを後悔してはいないし
もしあの日に戻れても絶対にやめない。


ユズを失うことが何より怖いから」


そう言った彼は唇を噛み締めていた。
その唇は震えていた。

こんなにも彼だって苦しんできたんだと…自分だけが苦しいとずっと思っていたのにそれは間違いで。




「……その原因を作った俺だって、ユズと同じように思ってた。

それをわかって欲しかった」


そう言って私との距離を詰めた彼。




もう闇へと姿を変えたここは誰も寄り付かないような寂れた場所。

こんな夜も更けた今では虫の声や風に揺れて重なる葉の音以外何も聞こえない。


だけどここは、周りとも時間とも関係のない隔離された世界

人の音がない異空間




そんな場所で私は…私たちは、
唯一取り残された存在だ。


過去という名の、
闇に囚われた全く異なる二つの個体






そんな全てと遮断された場所で私たちは
嘘など到底つけないのかもしれない。


































「……ホントはずっと謝りたくて…。





あの日のお礼は言えないけど、傷つけてしまったことに変わりはないから…。



嫌われてるって思ったら、存在を消されていたら…。

以前のようには決して戻れない。




……それは、私自身が何よりも望んでいることなの。

誰よりも私が、以前のような関係には戻りたくないと思っているから……」







あなたを傷つけることしか、
私はできないのではないだろうか?