「…なぜ、俺の病室に来たの?」
彼がやっと発したのはその言葉だった。
「…勝手に行ってごめんなさい」
彼がそんなことで怒らないことは勿論わかってる。
だけどその理由をあなたに伝えることは…絶対に出来ない。
「…病院にいた時、何処かから声が聞こえたんだ。
あの時、俺の名を呼んだのはユズだろ?
もう現実へ戻らなければと思ったんだ。
あの声を聞いた時、俺はただ現実から目を背けていただと気づいたんだ。
俺たちが出会ったあの日…思い出してみれば運命だったんだって…」
そう言って、彼はゆっくりと私に近づいて来た。
私は彼に触れてはダメだと少しずつ後ずさった。
だけど彼はそれを許してはくれなくて。
「…逃げんなよ、ユズ」
「…来ちゃダメだよ…っ。
私はあなたに触れていい人間じゃない。
汚いんだよ、私!!」
誰かに触れられるほど綺麗じゃなくて、
ましてや彼に触れられてもいいほど純粋なあの頃の私へは絶対に戻れないの…。
拳を握りしめて俯く私に、彼は更に辛そうに顔を歪めた。
「…あれはユズのせいじゃないよ。俺が勝手にしただけ。ただの自己満足だよ。
ユズを守りたかった俺の…」
違うと首を左右に振った。
私を助けてくれたことに感謝できない。
本当は私を盾にしてでも、自分自身を守って欲しかったのに…。
「前にさ、私が守るって言ったよね?
…そのせいだと思うの。
私が守るだなんて無責任なこと言うから
あなたが責任を感じて自分も守らなきゃって思ってるんだと…。
…だからもう、あんなことしないで。
辛いんだよ…私のせいで傷付いたって思ったら…自分が傷つく方が、ずっとずっとマシだったの……ごめんなさい」
言ってはいけないことだとわかってる。
この言葉で彼が傷つくということも。
だけどわかって欲しかった。
残された者がどんな気持ちなのか。


