「もうここまで来れば大丈夫だろ」



そう言って彼が止まったのは、いつか一緒に来たことのある公園。


「あの男、榎原の跡取りだったよな?

あいつとユズ…婚約するのか?」


もう頭の中がグチャグチャだった。
彼の問いにも答えられないほどに。




「おい、ユズ」

痺れを切らしたように、私の頬を掴んで無理矢理顔を合わせられた。

…彼に合わせる顔なんてないのに。




「久しぶりだな、ユズ。


前よりだいぶ…変わったな」


そして私と目が合うと笑顔を向けた。







その瞬間、胸に広がる春のような温かな感覚と共に、

私の頬に一粒の涙が溢れた。




私の変化に気づいてくれるのは、
いつだって彼だった。




そしてまた以前のように涙を拭ってくれる彼に…懐かしい"感情"が姿を現した。










「……ごめんなさい…ッ!」


とにかく謝らなければと…そう思った。



「…ユズは…何に対して謝ってる?」

どこか不安そうな瞳でそう尋ねた彼。






「何って…あなたを傷つけたことだよ」


"私の一生消えない罪"

あの日から、私はそう思っているから。



「それは、何のこと?」


「……私のせいであなたが……危険な目に遭ったこと。

……私の都合なんかで、あなたに勝手に会いに行ったこと。




…今まで私がしてきたこと全部だよ」



本当はあなたと出会ってしまったことを
あなたに謝りたかった。


"一生消えない傷"を、
あなただけに負わせてしまったから。