「私に力はありませんが…これからもどうぞ、よろしくお願いします」


そう言って姿勢を正し、榎原さんに向かって深々と頭を下げた。





これで、彼との縁は切れてしまうんだ。




自分の手を汚し、心をズタズタに引き裂いて手に入れたものなんて何もない。

全て彼への恩返し。

…いいや、これは勝手な罪滅ぼしだ。




「…楪さん、もういいんですよ。

あなたがそう言ってくだされば」


よろしく、という言葉を聞き嬉しそうにこちらを見る榎原さん。

だけどその瞳は欲望に濡れている。


「君も自分の立場がよく解っただろう?

彼女は君との縁を切ったんだ。

部外者がこれ以上、大人に口を挟むな」



"大人"なんて…。

榎原さんにとっては、私は大人に分類されているのだろうか?



















「…ふざけんな」


彼の激しい怒りが、
この部屋を…肌を刺激する。




「…ユズは俺が連れて帰る。

絶対に、もうお前に会わせたりしない」


「な、何を言っているんだ!?!

彼女は私の「ユズは俺のだ」…ッ!」


榎原さんの言葉を遮って言った彼。


そういえば、彼は独占欲が強いのだ。






「…ユズ」


私の名前を呼んで近づいて来る彼。

私に向ける瞳はいつも優しかったのに…
今はただ、激しい怒りだけが彼を支配していた。



私が黙ったまま彼を見つめていると痺れを切らしたように彼は私を引っ張って立ち上がらせた。




「…行くぞ」




そして強い力で私を引っ張り、部屋を駆け足で出て行った。


「待て!」と言う榎原さんの怒鳴り声を背後で感じながら。