「ユズ、「な、何なんだお前!!」…」
彼が口を開いた時、それに重なってずっと呆気に取られていた榎原さんが怒鳴り声をあげた。
「急に入って来て彼女を気安く呼ぶとは非常識にも程があるんじゃないのか!」
そんな風に怒鳴る榎原さんを、彼はとても冷たい瞳で見つめていた。
そんな彼に、正直ドキッとした。
自分もこの後彼を突き放したらこんな瞳をされるのではないか。
もちろんそんな不安もあるけど、今はそれよりも…。
彼の懐かしい瞳に、
胸が騒いでしまったのだ。
「な、なんだね…!?」
そんな彼の瞳に怯えたように、だけど強気に応えようとする榎原さん。
この時点でどちらが優勢かなんて誰が見たって明白だ。
「はぁ…あんたさ、ユズの何なわけ?」
急に彼は私の彼氏のように言った。
あぁ、なんか前にもこんなやりとりが敵陣であったような気がする…。
「…こ、これは家同士の取引だ!
子供に邪魔をする権利などない!!」
この権力を振りかざす人が私の結婚相手かもしれない…。
でもこの人は…
「そんなの関係ねぇだろ。
子供とか大人とか…。
俺が、ユズの彼氏なんだから」
彼の1番、嫌いな人種なのだから。
「はぁ?
何を言っているんだ、そんな出任せ」
「出任せじゃねぇよ」
若干イライラしたような彼。
彼が怒るなんて珍しいかもしれない。
「…実際ユズのことをたくさん知ってるのは俺だろ?
ユズが考えていることも、
経験したことも、
…俺はユズのことなら誰より知ってる。
心も、…身体もな?」
そして妖艶にニヤッと笑った彼。
そんな彼に榎原さんはまた呆気に取られたようだった。
「ほ、本当なのか、楪さん!?!」
「……以前そういうことがあったのも事実です。
私と彼は恋人同士で…。
ですが、私が峯ヶ濱のほとんどを任されている今、もう彼とは関係を切ります。
もう切れたものだと思っていたのですが…本当に、申し訳ありませんでした」
彼を守るためには、自分を汚す嘘だって私は平気でつく。
彼は私の言葉に酷く驚いたようだった。
そしてそんな彼を見て榎原さんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


