部屋に戻ると、
とても見覚えのある人を見つけた。




「…夕梛……っ」


「お嬢様…」


私の顔を見て、一瞬安心したように表情を緩めた彼。


もうずっと何年も会っていなかったように思えるのが不思議だ。





…だけど、どこかよそよそしい彼。




「…夕梛?」


いつまでたっても近づいてこない彼を不振に思って声をかけた。





「…すみません、お嬢様。







私の力不足です」



「えっ…?」


突然の謝罪に頭が真っ白になった。

謝るべきなのは私なのに。



「…旦那様と奥様から世話係を離れるよう命(めい)を受けました。


本当に申し訳ございませんでした」




「…ごめんなさい、夕梛」




私の所為でやつれたように見える彼。

私がここを離れている間
沢山の人に責められたはずなのに、
文句の一つも言わない彼。


問題があるのは私の方なのに。

それを全部庇ってくれた彼は、誰からみてもこれ以上ないほど最高の執事。




「…どうしてもお願いがあるの」



















私の最後の願い。




それは、


"私が眠るまで一緒にいて欲しい"



彼は私が言った通り、私が眠りに着くまでずっと側にいてくれた。



最後に聞こえたのは、

"今までありがとうございました"

"守りきれなくてごめんなさい"


彼からの感謝と謝罪。

私が彼と過ごした時間は決して全てが素敵な時間だったとは言えないけれど、
どれも大切な時間だ。





だけど目が覚めると次の日、
彼の姿は見当たらなかった。




彼と私の過ごした痕跡は何一つ、
この部屋には残っていなかった。