赤い電車のあなたへ




「そりゃちょっとは残念さ。けど、鞠はこの2ヶ月慣れないバイトまでしてずっと頑張ってだもんな。従兄としては、目的の人間に逢わせてやりたいよ」


まさか夏樹がそんな事を言ってくれるなんて、思いもしなかった。何がなんでも絶対に反対されると思ったから、ずっと隠してたのに。


わたしは頭がぼうっとしたままだけど、2人の会話に意識を集中しようと努めた。


「夏樹先輩って、優しいんですね」


ほたるがそんなふうに言うのを、夏樹が諌めた。


「ほたる、いい加減に先輩呼ばわりを止めてくれないか? 名前だけでいいだろ」


「え、でも……」


ほたるが困惑した声を出しても、夏樹は「構わない」と笑った気配がした。


「おまえと俺の仲じゃないか。何を今さら遠慮してんだよ。ほら、呼んでみろ」


「え! 今からですか!?」


ほたるがもごもごと小さな声で言うのを、わたしは複雑な気持ちで聞いていた。


夏樹とほたる……やっぱりそういう仲になってたんだ。


お互いに名前で呼ぶほど親しくて、毎週一緒に出掛ける。これを恋人と言わずして、他になんて表現すれば良いのか。