蝉の忙しない鳴き声が気持ちを浮き立たせる。 気持ちのいい青空。 濃い緑を吹き抜けた風が肌をなぜて汗を冷やした。 わたしが朝露に来て9年目の夏、7月下旬。 わたしは踏切の前で待っていた。 あの人の笑顔を見るために。 赤い電車でやって来る、あの人を。 8年前と同じように。 枕木が微かに揺れ、リズミカルな音が遠くから響く。 わたしは頭の麦わら帽子を押さえ、その電車に向かってにっこりと笑いかけた。 車窓から見えるのは――。