「けれど、ね」


龍太さんの声音がほんの少し変わった。
暗く沈み込んだ低い声は、微かな明るさを滲ませている。


「君が、来てくれた……鞠ちゃん」


「……?」


わたしはよく分からなくて目を瞬かせた。


龍太さんはわたしから体を離し、真っ直ぐに見て伝えてくれる。


「君が、僕を見つけてくれたんだ。一度しか見たことが無い僕を……とても時間をかけて、とても努力してくれて。
それが解ったとき、僕は恥ずかしくなった。
そして、心があったかくなったんだ。
まだ……僕を必要としてくれる人がいるんだって」


とても、心強くなったよ。龍太さんはそう言って微笑んでくれた。


「君は僕を救ってくれた。自分から動かないとなにも変わらない、と立ち向かう勇気を教えてくれた。
だから……僕は東京に帰るよ」


「え……」


龍太さんの発言にわたしは頭が真っ白になった。


龍太さんが帰ってしまう。
東京なんてわたしの住む朝露から遠すぎる。少なくとも電車で半日以上掛かるし、電車代だってすごくかかる。

わたしは泣くまいと思ったのに、ポロポロと涙があふれてきた。