赤い電車のあなたへ




龍太さんの気持ちは解ってる。


十分に解ってる。


彼の気持ちがわたしにない事も。


彼が決してわたしを見ていない事も。


これから何があっても彼がわたしを思うはずがない事も。


解ってた。


ずーっと解ってた。


わたしが勝手に捜してただけ。


わたしが勝手に恋しただけ。


自分に取っては運命とも思えた出会いだって、相手から見れば全然そうじゃない。それだけの話。


逢えればいいと無我夢中だった。


話せれば最高だと思った。


でも……。


逢えれば、話したいと思った。


話したら、触れあいたいと思った。


触れ合えたら、側にいたいと思った。


どんどん、どんどん贅沢にわがままになっていった。


こんなに欲深くなっていく自分に呆れて、わがままを言うまいと懸命に控えようとした。


それでも、やっぱりわたしには遠い人だった。

叶わないと頭では理解しながら微かな期待をしたって無駄。わたしの想いを知られちゃいけないし、ましてやもっと貪欲になんかなっちゃダメ。


わたしが龍太さんを好きなように、龍太さんは良子さんが好きなんだから。


わたしが夏樹から言われて困ったように、龍太さんを困らせちゃダメだ。


あきらめるしか、ないんだ。


龍太さんが大変な目に遭ったお詫びに彼の要求を叶えて……
そうしたらもう、二度と会わないようにしよう。


それが、一番、いいんだ……。


わたしは熱くなる瞼をしっかり閉じ、顔を上向かせて雫が滲まないようにした。