赤い電車のあなたへ

それを思い出したわたしはギュッと手のひらを握りしめ、痛む足を庇いながらさっき通りかけた場所に戻った。


わたしは龍太さんにおぶってもらえたからわからなかったけど、この近辺は岩場になっていて凹凸が激しい。


わたしは岩伝いに移動していき、ようやく龍太さんを見つけ出した。


けれども、龍太さんは崩れた岩場の下に埋もれていたんだ。


わたしが一緒に埋もれなかったのは、とっさに彼が放り投げてくれたから。



一度ならず滑って戻ったダメージや時間的なロスは大きい。


滑落した際に体じゅうが傷つき、あちこち打ったりもした。

擦りむいた肌から血が滲み、ずきんずきんと痛む。


足が自分のものでないみたいに熱を持ち始める。


泥だらけで薄汚れてみっともない。


けれども、わたしはそれら全てに構わずただ無我夢中に登り続けた。


汗がポタポタ滴り落ち、息が苦しくなっても休まない。龍太さんの命がかかっているのかもしれないんだから!


3度目に滑り落ちた時はほとんどスタート地点で泣きたくなった。でも、ぐじぐじ泣いてる隙はない!


ギュッと握り拳を作ったわたしは、反対側に木の根が張り出した場所を見つけてそれを頼りに登り出す。割と緩やかな斜面で根が足場になり、なんとか無事に登りきった。


ただ、その分遠回りになってしまったけれど、いまさら登り直す時間はない。


わたしはチラッと龍太さんを見て(きっと助けに戻ってきますから)と内心つぶやき、離れがたさを断ち切って歩き出した。