「お待たせ」と言った龍太さんは、Gパンとチェックのシャツというラフな格好で現れた。


「鞠ちゃんは足、つらいだろ? 自転車借りたから後ろに乗ってもらっても大丈夫かな?」


自転車のキーを指でくるくる回しながら、龍太さんはわたしを気遣ってくれた。


「あ……はい。大丈夫です」


わたしは龍太さんの優しさが嬉しくて、思わず頬が緩みそうになる。けど、それはいけないと頬を叩いて気を引き締めた。


「どうかした?」


ちょっとだけ怪訝そうな龍太さんの声に、わたしは急いで手を振り言い訳を出した。


「あ、すいません……何でもないです。ちょっとほっぺたがかゆくて」


「そう? 蚊にでも刺されたのかもしれないね」


龍太さんはそう言うと、ポケットから小袋を取り出した。それは錦織でできた巾着袋で、手のひらの半分くらいの大きさ。


龍太さんが差し出したそれを受け取ると、なにか香草のような樟脳に似た匂いが漂った。


これは? と龍太さんを見上げると、彼はその正体を教えてくれる。


「それはね、虫除け。入ってるのは数種類のハーブを組み合わせたもの。結構効くから持ってるといいよ。この辺りは蚊が多いから」