龍太さんに二度もお礼を言われ、わたしはただ彼を見上げるしかできない。


「君になら話してもいいかな」


龍太さんは椅子を引き寄せて、わたしの目の前に座った。


ドキッと高鳴る鼓動がますますわたしを落ち着かなくさせる。




「実は、僕も鞠ちゃんを知ってたんだ」




龍太さんの告白がわたしの胸に染み渡るのに、ゆっくりと時間がかかった。


龍太さんがわたしを知ってた?


「え……」


間抜けなことに、わたしはそんなふうに戸惑うしかできない。


「あの時」


龍太さんは話を続け、わたしをまっすぐに見た。


「鞠ちゃんは麦わら帽子を被ってたよね?」


あ、とわたしは思い出した。確かにわたしが着ていたのは、お気に入りの水色のチェックワンピース。そして麦わら帽子を被ってた。


「鞠ちゃんは記憶がないかもしれないけどね、君は飛びそうな帽子を必死に押さえてたんだ。
電車が通る時の風に煽られてて。
なんだか微笑ましくて、思わず笑ってしまったけども」


龍太さんは一度話を切り、ポケットから写真を取り出した。


「なんだか和めたんだ。その後に大変な事が控えてると分かってたから」