「わたしは清川 鞠といいます。こちらこそよろしくお願いします」
わたしは椅子の上でぺこりと頭を下げた。
するとなぜか多香子さんは処置室から出ていって、すぐ戻ってきた。
「礼儀正しいいい子にはこれをプレゼント。龍太が戻ってくる前に食べちゃいなさい」
アルミホイルに包まれたそれは、クルミ入りのココアパウンドケーキ。
「おやつのために焼いたけど、半分失敗して松田先生と龍太の分は足りなかったんだ。
本当は1人でこっそり食べるつもりだったけどさ。鞠ちゃんはここまで龍太を追ってきてくれたんでしょ? だから、ご褒美ね」
内緒、と人差し指を唇に当ててウインクまでされたから、わたしはありがたくいただく事にした。
「ありがとうございます。いただきます」
パウンドケーキを口に入れると、ココアのほろ苦さが中で溶け、クルミの香ばしさと相まって美味しい。
「とっても美味しいです」
わたしが正直に口にすると、多香子さんは「ありがと」と嬉しそうに笑った。
「鞠ちゃんはどっから来たの? 龍太を知ったのは去年とか聞いたけど」
あらら、松田先生は本当におしゃべりみたいだな。
でも、自分から説明する手間は省けたし。龍太さんからききにくい事情を訊ねるにはいい機会かも。
わたしはパウンドケーキを半分残し、多香子さんに向き直った。



