赤い電車のあなたへ




松田診療所まで背負ってもらった後、椅子に下ろしてもらったわたしは恐縮した。


「すいません……ありがとうございます」


「構わないよ。体力だけしか取り柄がないから……あ、お茶は緑茶でも平気かな?」


龍太さんに訊ねられ、わたしははっと顔を上げた。彼がわたしの顔を覗き込んでたからか、顔同士の距離が近くて。頬がかあっと熱くなった。


龍太さんの力強い眉や男らしい造形をぼうっと見つめた後、現実に返って恥ずかしくなる。


「あっ……だ、大丈夫てすっ!」


すぐに俯いたわたしは、返事をしなきゃいけないと震える声でそれだけ答えた。


心臓が壊れそうなくらいに高鳴ってる。でも、不愉快な高鳴りじゃない。ときめいてるんだ。


「わかった。ちょっと待ってて。松田先生も緑茶でいいですか?」


「あ~! それでいいだよ」


嗄れた松田先生の声が診察室から返ってきた。


「多香子さんもいいですか?」


「いいよ~!」


多香子さん? 誰だろう?


ちょっと胸がざわめいたけど、処置室に姿を表したのは40歳くらいの看護師さんだった。


「あなたが松田先生の言ってた鞠ちゃんね? 私はこの診療所で働いてる加藤 多香子。よろしく」


にっこり笑った多香子さんは人懐っこい笑みで、わたしもなんとなく好意を持てた。