赤い電車のあなたへ




くずきりは黒蜜をかけていただく。こってりした濃密な甘さが苦手だなあ。


なら、とわたしは水まんじゅうを選んだ。
見た目が涼しげだし、普通のさらし餡以外にもそら豆の餡とか、いろんな工夫をされてるから。


「わたしなら……この水まんじゅうです。さらし餡以外にも、野菜とかを餡に使って味にバリエーションがありますから」


わたしは遠慮がちに説明しながら、龍太さんの横顔を窺う。

ああ、まただ。また人の顔色を窺う嫌なクセが出てしまってる。


でも、仕方ないよね。


やっと再会出来た初恋の人だもの。


思いがけない再会だったけど、わたしがずっと捜さずにいたら。こうして再会なんかしなかったんだ。


この数ヶ月は全くムダじゃなかった。


龍太郎おじいさんと知り合って、龍治さんと会って。いろんな情報を得て。一生懸命にアルバイトしてお金を貯めて。ほたるの旅行の誘いがなかったら、こうしてここに居なかった。


わたしの努力はムダじゃなかったんだ。


それ以前にわたしが思い切って朝露に来なければ、再会の可能性すらなかった。


この人とこうしてお話出来る幸せは、自分の決断と努力とみんなの協力が何一つ欠けても実現しなかったんだ。


なんだか胸がいっぱいになったわたしの目から、ポロリとひと粒の涙が流れた。