赤い電車のあなたへ




「え?」


龍太さんは一瞬、ポカンとした顔をした。何を言っているのか解らない、というふうに。


そりゃああたりまえだ。


わたしは龍太さんとの出逢いを心に刻み込んで、毎日彼の事を思いながら探して様々な事を知ったけれど。龍太さん自身はわたしの事なんて露にも知らない筈なんだから。


「あっ……ごめんなさい! いきなりそんな事を言われても困りますよね」


わたしは慌てて頭を下げ、恥ずかしさから頬が火照った。
なんてドジをしちゃったんだろう、わたしは。


なんだか泣きたくなってきた。


「龍太」


おもむろに松田先生が彼を呼び、ひとつ頼み事をする。


「そのお嬢さんを背負って診療所まで戻ってきなさい。わしは先に戻っているから。
あ、茶菓子も忘れずにな」


「はい、わかりました」


松田先生を見送ると、龍太さんはくるりと振り返ってわたしを見た。


「鞠ちゃんって呼んでいい?
一緒に和菓子を選んでもらっていいかな?」