赤い電車のあなたへ




まさか、とわたしは何度も目を疑った。


松田先生の助手として紹介されたその人こそ、わたしが1年前に一目惚れして探し続けてきたかた。


緑川 龍太さん。


少し面窶れした風にも見えるけど、太い眉とか細い目やがっしりした体格は変わらない。


本当に驚いた時は声が出ないものらしい。わたしはすぐに言葉が出せず、白衣を着た龍太さんをポカンと見上げてた。


「どうかしましたか? 僕の顔が珍しいんでしょうか?」


龍太さんの口が動き言葉が発されたけど、それがまさかわたしに向けてだなんて理解出来なくて。


本当に、これは現実なのか。夢じゃないのかと目や耳を疑った。


初対面した時に何十何百回とシミュレーションし、完璧な挨拶や自己紹介を考えてしっかり覚えてたはずが、頭から全て吹っ飛んでた。


そして、わたしはとっさにこんなことを言ってしまった。


「あ、あの! わたし清川 鞠と言います。朝露高に通う一年生で15歳です! はじめまして!
あの……実は去年朝露で龍太さんを見ました!!だからわたしはここに来たんです」