7月。


夏休みに入ってすぐ、わたしは朝露(あさつゆ)町の駅に降り立った。


朝露町は人口が5000人ほどの山あいの町で、ここにある朝露高校を見学するためと。


それから、下宿先の健太(けんた)叔父さんの家に挨拶をするため。


わたしの家は朝露駅から10駅以上離れた某中核都市。
高校もその市には公私立合わせ10以上ある。


けれども、わたしの家の事情が事情なだけに、わたしは家から地元の高校に通うか、叔父さんの家に下宿し朝露高校に通うか、を悩んでいた。


叔父さんはわたしを娘のように可愛がってくれたし、従兄の夏樹(なつき)とも仲がいいから。


朝露には1人でも何回か来てたから、わたしはいつものように電車から降りて歩き出した。


健太叔父さんは迎えに来る、と言ってくれたけど。わたしはそれを断って歩くことに決めてた。


朝露町は朝露川に沿って開けた町だから、道路も線路も川沿いに続いてる。


夏真っ盛りの艶やかな緑の山々。


耳に痛くなる蝉の合唱。


夏独特の青く染まる空は真っ白な入道雲が目にまばゆい。


水辺の涼風とともに青草の薫りを胸いっぱいに吸い込んだ。


都会とは違う空気が隅々まで体に染み渡り、ちょっとした開放感を感じる。