赤い電車のあなたへ







夏樹は襖を開いた格好のまま、柱に押しつけた腕に頭を着き、うつむいた。


「……もっと……自覚しろよ! もっと解れよ!」


苛立ちと他の感情がない交ぜになった夏樹の怒鳴り声は、なぜかわたしの胸をギュッと締めつける。


「……夏樹」


わたしはなんて言えばいいのかわからず、ただ震える声で呼ぶしかない。夏樹が怒る原因がわたし自身にあるのだ、とだけはぼんやりとわかった。


「くそっ……」


夏樹は空いた手で拳を作り、柱を殴りつけた。古い木造の柱が揺れる。


「……今から下に降りる。5分したら戻るから、その間に部屋へ帰れ」


夏樹はわたしを見ずにそう言い、しばらくの逡巡があってから意を決したように言い切った。


「……おまえが……今までの全てを壊してもいいなら。従兄妹という枠を越えるつもりなら……ここにいろよ。
その時は俺も……もう抑えるつもりはないからな」


夏樹はわたしに二者択一を迫る。そしてわたしが口を挟む間もなく、乱暴な足取りで階段を降りていった。