「色々と有難うございました!」


「いいえ!またどうぞ。」


花屋さんのお姉さんにお礼を言うと、
私は再び駅への道を歩き出した。



携帯の画面には先ほど撮ったブーゲンビリアの画像が。



「霧島くん……。」



思わず、想い人の名前を呟いてしまう…。




すると!





「咲希?」




え……?





まさか!!





「霧島くん!!?」





その声に反応して、私はバッと後ろを振り返る……!


と。


「はぁ~い、咲希!お久しぶりん♪」


「マ、マリコさん?!!」



な、なんでマリコさんが此処に??



霧島くんの声がしたので、彼が後ろにいると思いきや、
マリコさんが急に現れたので、戸惑ってしまう!



が!



私の心情は一切無視で、マリコさんは物凄い勢いで私に詰め寄ってきた!


「ちょっと咲希ぃ~!!なんでお店に来てくれないのよおっ!アレから一度も音沙汰なしってちょっとキツイわよ?」


「あ!ご、ごめんなさいっ!!そうですよね!おごって頂いた身なのに、全然顔を出さないなんて不謹慎でした!!すみません!!!」


ご機嫌ナナメのマリコさんに私は必死に謝る!


するとプリプリと怒っていたマリコさんが、急に表情をコロッと変える。


「アラ!じゃ~またアタシの淹れた珈琲飲んでくれるのね?!」


「え?……ハ、ハイ!是非!今度はちゃんとお支払い致しますので!」


「ヨシ!そしたら、善は急げよっ!!今からコピ・ルアックへ、レッツゴーよ!!」


と、マリコさんは言うが早いかで、私の肩をがっしりと掴んできた!!


「え!??い、今から………ですか?!!それはちょっと……。」


「まぁ!どうして?!…………まさか!!やっぱりリッキーの “出がらし珈琲” を飲みたくなったの?!!」



リッキー…。



って、確か霧島くんのことだよね…?



「あの、そうじゃないんですけど、私はお使いの途中でして!それで、これから爆安価格のお醤油を買いに駅前のスーパーまで急いで行かないといけなくて!その、数量も限定なので……!!」



するとマリコさんの動きがピタリと止まった!!



「………数量限定?爆安価格!?」


「ハ、ハイ!あの、母に頼まれたので、それをまず買いにいかないといけな…」


「………………咲希の言い分はわかったわ。要するに!その勝負に勝ちゃあいいわけね…?」


「そうですね……って、え!?勝負!??」



勝つ!!?



いったい何に!!?



というか、勝ち負けの話を私はいつしたっけ!?



するとマリコさんの目がギラつき、獲物を狙うような鋭い眼つきに変わると…、



「うっしゃあぁ!!したら、こんな所でうかうかしてらんねえぇぇ!!!ちゃっちゃと行って、ちゃっちゃと終わらせるわよ!!そして絶対勝つ!!!!待ってろよ………。今頃タカってやがる、オバタリアン集団共!!!!」




!??




彼女……………



いや、彼の人格がこの瞬間、変わった…。



そして停止線をスタートラインにみたてて利用し、アスリート並みのキレイなホームで構えてみせると、

クラクションの音の合図で、彼女はまるで弾丸のようなスタートダッシュをし、そのままエンジン全開で猛ダッシュで大通りを駆け抜けて行った…!!



「うおりやゃゃーーー!!!!醤油待ちやがれえぇーーーー!!」



「あ!!ちょっ、マリコさ…!」



そう。


それは風のように去り、私が止める間もなかったのだった……。





えっと…。


どうして、マリコさんが私の代わりにお醤油を買いに??


そしてなぜ、マリコさんはこんな所にいたんだろうか??



彼女への謎は深まる一方で、私はこの状況が全く理解しきれていなかった……。



気がつくと彼女の姿は米粒のように小さく、
私のため息は大きかった。



それにしても……。


マリコさんの声って霧島くんに少し似てるような??





『咲希?』




声をかけられた時、本当に霧島くんだと思っちゃった……!!


また…あんな風に “咲希” って呼んでくれる日が来るといいな。




マリコさんが駆けて行った道を私は一歩前へと進み、そして走り出す!


これからの事を全力で駆け抜けていきたい!!



そんな願いが込められていた。