テスト終了後。


私は7組を訪れていた。




「霧島くん?霧島くんならもう帰ったけど。」


「そ、そうですか……。」


勇気をふりしぼって彼のクラスに来てみたけど、霧島くんの姿は見当たらず。



はあぁ~。


もうちょっと私が早く勇気を出していればな。



心の準備をしてる場合じゃなかったよ…。


結局、この日は霧島くんの姿を見かけることもなく、終わってしまった…。



仕方ないか。


また明日頑張ろ。


気持ちを切り替えて前を向かなきゃ!


明日はもう期末テスト最終日だし!



テストが全て終わったら、今度こそ私の気持ちを霧島くんにハッキリ伝えよう!



もしかしたら、余計に嫌われちゃうかもしれないけど…。



そんな複雑な気持ちを抱えながら、私は学校を後にした。







帰り道を歩き始めて3分。




~♪




「ん?お母さんからだ。」


こんな時間に電話なんて珍しいな。


「もしもし?お母さん?」


『咲希?今まだ学校にいる??ちょっと頼みたいことがあるんだけど!』


学校からちょっと歩いちゃったけど、いっか!


「うん。何?」


『実は駅前のスーパーで、お醤油が激安なのよ!!!だから行ってきてくれない!?学校から駅までなら歩いて10分くらいでしょ??』


「え…!?お醤油!?明日じゃ駄目なの?」


『今日限りでお一人様一本!!だからお願い!!!数も限りがあるみたいだからヨロシクね!!!お母さん、これから手術室入るから携帯繋がらなくなるから!じゃ、お醤油ちゃんよろしく~♪』


「え!ちょっと!!」




ツー。ツー。




切れちゃったよ…。



「お醤油重いんだよな。はぁ~。仕方ないな、お母さんは。」


私は来た道を戻る格好で、駅の方角へと向かった。






大通りをそのまま歩いていくと、左手に色鮮やかな風景が視界にとびこんできた!


あ!花屋さんだ!


綺麗…。



思わずお店の目の前で立ち止まってしまう。


色とりどりの花たちがお店を彩っている。


こんなところに花屋さんなんてあったんだ。最近できたばかりなのかな?


でも観てるだけで和むな~。



最近涙を流してばかりだからか、緑に触れることで改めて人の心はこんなにも癒されることを知る。


お花が元気に咲いてるからかな?


こっちも元気になってくる。


弾む思いで並んでる鉢や苗を観ていると……。




あ!!



ブーゲンビリア……!




お店の隅に置かれていて、すぐには気がつかなかったけど、やっぱり綺麗だな~!


じぃ~っと観ていると、お店の奥から女性の店員さんが笑顔でこっちにやって来た!


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


「あ!いえ、その、とっても綺麗だな~っと思って、つい魅入ってたんです!!すみません…!」


「そうなんですね。有難うございます!」


と、その店員さんはとても丁寧に対応してくれた!


すごく感じの良いお姉さんだな!笑顔も可愛いし!



「もしかして、ブーゲンビリア好きなの?」


と、店員さんが訊いてくる。


「あ、ハイ!昔から好きで。」


「そうなんですね。………このお花って最近高校生の間で流行ってたりするの?」


「え??高校で、ですか?!」


私たちの間で流行ってるものなのかな?!


聞いたことないけど。


なんとも言えずにいると、


「確か、5日くらい前だったかな?男の子なんだけど、すごく大人っぽくて年齢訊いたら16歳って言うからびっくりしちゃって!それでね、その高校生が携帯を取り出して、 “写真撮っていいですか?” って訊いてきたから、 “お花好きなの?”って訊いてみたら、 確か…… “好きな女の子がこの花好きなんです” って!」


「え………。」




それって……。




まさか……………。


「それでその撮った画像を好きな子に送ってたみたいで!素敵ですよね~。だから最近の若い子たちの流行りの告白方法なのかな??って!」


と、店員さんが目を輝かしてブーゲンビリアを眺めていた!



「告白……方法???」


「そう!ブーゲンビリアの花言葉は、『あなたしか見えない』だから!」



「あなたしか……見えない……。」







『いつになるかは未定だけど、絶対贈らせてもらうからな?で、必ず受け取れよ。』




!!!




そしてもう一言、付け足して呟く。


「海外ではよくプロポーズの時に贈られる花なんですって!」


「プ、プロポーズ……?!」


「見た目が派手な高校生だったから、よく印象に残ってるのよね~。」




派手な高校生……。



5日前……………って、


その日って!



私が歩道橋の階段から突き飛ばされた日!!!




驚きで微動だにしない私に、店員さんが尋ねてくる。


「どうかしましたか?」


「…………………………あの。私もこのお花の写真、撮ってもいいですか?」


すると店員さんは満面の笑みで、


「どうぞ?」


と、ブーゲンビリアの鉢を私が撮りやすいように前へと出してくれた。



「お客様も、誰か好きな人に送られるんですか?」


「はい……!とても……大好きな人に……!」