霧島くんが去った後、やけに冷たい風が吹いていた。



私は彼の悔しそうな、それでいて切なげな顔が頭から離れなくて、
私はその場から動けずにいた。



霧島くん…。




今の自分にはどうすることもできなくて、ただ心の中で彼の名前を呼んでいた……。



「ねぇ、里菜……。ヤバイって……!理人を怒らせたら、もうアタシら話しかけることができなくなっちゃうじゃん……。」


ファンの一人がそう呟いた。


「……このまま、全く理人と話せなくなっちゃったら、やっぱヤダなぁ。アタシは。」


「そ、そうだよ!ウチら……理人には嫌われたくな…」


「何言ってんの!!?理人がこのまま本気でオンナなんかできちゃって相手にされなくなったら、それこそ里菜たちオシマイじゃないッ!!!理人にとって里菜たちが “特別” に決まってんジャン!!!」



え?


何の話…??



盗み聞きは悪いと思ったけど、さっきの霧島くんとのやり取りを考えたら聞かずにはいられなかった。



「理人にとってオンナなんて、ただの性欲処理でしかないんだよ?!!」





っ!!!





「それに比べて里菜たちの立場はそのオンナよりも明らかに上でしょっ!!?里菜たちが一番大事にされてるに決まってんジャン!!!!」


「でもさ………鳴瀬の件はどうすんの?」


「認めたくないけどさ、やっぱり、理人は本気で…」



「ヤメテェッ!!!!!」





!!!





その時笹原さんの悲鳴のような声が聞こえてきた……!!


「やめて、やめて!!!そんなコトあり得ないッ!!!そんなの認めない!!そんなの認めたら、里菜………今までなんの……ため…に……、」


笹原さんは声を詰まらせて、それ以上何も言わなくなってしまった…。



他の子もわけがわからないのか、困ってる様子でお互い顔を見合わせていた。




私は居たたまれなくなって、きづかれないようにその場を後にした……。






霧島くんと笹原さん達の間には、私には理解できない絆があるのかもしれない。


私の知らない、絆が……。


そう思ったとき、急に胸の奥が痛んだ!



私の知らない関係……。



そんなのあって当たり前なのに。


でもなんでだろう…?



どうしてこんなにも寂しいって思っちゃうのかな……?



笹原さんは泣いてたけど、私はなんだか羨ましかったよ…。



あなたと霧島くんの関係が。







『大丈夫だよ、理人は。鳴瀬さんを傷つけるような事は絶対しないから。“友達” に対しては熱いヤツだからね、理人は。』





その時、ハタと思った!!






違う……!





羨ましいんじゃない……!!



私は、二人の関係を妬んだんだ!!



羨ましいなんていう、そんな綺麗な気持ちなんかじゃないっ!!!



私は、霧島くんとはただの “友達” だから!



それ以上でもそれ以下でもないから……!!




歩いていた足が自然ととまる。






そして、気がついた。







どうして、今まで気づかなかったんだろう……?






私は、こんなにも想ってしまっていたんだ………!






友達なんかじゃない……!




私はいつの間にかあなたのことを……。




こんなにも……。





ふと青い空を見上げる。



流れる雲が今の私には眩しいほど白かった……。



そして、初めて自分の気持ちを口にした。






「好き……だよ……。霧島くん……。」





空を見上げてそう呟くと、
想いは溢れ出てきそうになり、こみ上げてくる熱いものをとどめるのに精一杯だった……。




好き。




どうしようもないくらい、あなたのことが……。



泣けてくるくらい好きなの。



霧島くん……。